パニック障害とは?
パニック障害とは突然動悸や息苦しさ、喉の詰まりや激しいめまいが出現し、このまま死んでしまうのではないという強い不安が現れる一連の症状です。
これらの症状の他にも冷や汗や手の震え、痺れなどが現れる事もあります。
このパニック症状は発作的に起こり、長くても1時間で症状が自然と治まってきます。
ですので発作が起こって救急車で運ばれ、病院に着く頃には症状が治まってしまいます。
そしてこれらのというのが症状の原因を探るべく内臓や脳など様々な検査を受けても、異常が見られない事が特徴です。
症状が治まっても終わらないのがこの疾患の怖いところで、例えば発作が起こった場所や環境になると、再び発作が起こってしまうのです。
そうするとまた発作が起こるのではないかという恐怖や不安が生じ(予期不安と言います)、酷くなると外出する事が出来なくなってしまいます。
そしてなかなか家から出る事も出来なくなると、今度は精神的にも参ってしまい、うつ症状なども現れてきてしまいます。
ですので、パニック障害は発作による症状だけでなく、その後に現れてくる予期不安やうつ症状などを伴い悪化していく事も怖い疾患です。
パニック発作が起こりやすいのは、電車の中や人混み、高速道路の運転中や閉ざされた空間(映画館やエレベーターなど)など、逃げ場のない状況で起こりやすいです。
パニック障害の原因
最近分かってきた事ですが、パニック障害の原因には、脳内の神経伝達物質の過不足にあるとされています。
その中でも、不安を抑制するセロトニンという物質が減少していて、逆に不安や脳の興奮作用を促すノルアドレナリンという物質が増加している事が分かっています。
このノルアドレナリンは自律神経の一つである交感神経の働きを亢進させるため、動悸や発汗、震えなどを引き起こしてしまいます。
また筋肉も緊張するために、息苦しさや喉の詰まりと言った症状も起こります。
ここまでが現在の西洋医学で分かっている原因です。
ここからは、実際に鍼灸治療の臨床で多くのパニック障害の方を治療してきた経験から考察する原因についてお伝えしたいと思います。
先程、パニック障害の原因にノルアドレナリンの増加が見られるために脳の興奮と不安作用が生じ、またそれが交感神経の作用を亢進させるためにパニック発作の症状が現れる事をお伝えしました。
ですが、何らかの原因によって自律神経のバランスが崩れ交感神経の作用亢進すると、それによってもノルアドレナリンの分泌が増加します。
そして不安症状を始め、パニック発作の症状が出現します。
自律神経のバランスが崩れる原因は様々ありますが、精神的肉体的環境ストレス、生活リズムの乱れ、睡眠不足や質の低下、食生活の乱れや栄養素の過不足などが挙げられます。
これらが持続的に身体に加わる事で、自律神経のバランス機能は崩れ、交感神経が亢進してしまいます。
実際、パニック障害の方の自律神経機能を計測すると、交感神経の機能が亢進している事が多いです。
またお話を聞いてみると、自覚の有無に関わらず、自律神経失調症の症状を併発していたり、以前に自律神経失調症を患っていたという方がほとんどです。
このように臨床経験上、パニック障害の背景には大なり小なり自律神経の乱れが関わっている事が多くの方に見られます。
パニック障害の治療(西洋医学)
病院におけるパニック障害の治療には主に3ステップあります。
①パニック発作を抑える治療
この段階では主に薬物治療にてパニック発作を抑える治療を行います。
主に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)やベンゾジアゼピン系抗不安薬から始められます。
これらの薬物は飲み始めや増量時に副作用が起こりやすいです。
②予期不安や広場恐怖を克服して、回避行動を解消する
パニック発作がコントロールされてくると予期不安や広場恐怖も減ってきます。
しかしパニック発作が治まっても、予期不安や回避行動などが残る事もしばしばあります。
この段階では、発作に関係した場所や状況に少しずつ慣らしていく認知行動療法を行っていきます。
③生活習慣を改善しながら徐々に減薬し、最終的には服薬を終了する
予期不安や広場恐怖が改善されてきたら、次に生活習慣を改善し、心と体の回復を図ります。
体調が良くなってきたからと言って、自己判断で減薬したり断薬すると、離脱症状(中断症状)が出てくるので、必ず医師の判断に従いましょう。
生活習慣が変わり、心と体が回復してきたら、最終的に服薬を終了します。
パニック障害の東洋医学的考え
東洋医学では「気」「血」「水」「精」と言ったエネルギーと栄養、水分が充実し滞る事なくスムーズに全身を巡る事で、身体の健康は保たれると考えています。
パニック障害ではこの中でも「気」というエネルギーが滞ってしまい、身体の局所局所でエネルギーの過不足が起こってしまっている状態(東洋医学では気滞(きたい)と言う)です。
この気の流れを調整しているのが「肝(かん)」という臓器です。
この肝という臓器は長期的なストレスや強力なストレスに晒されたり、睡眠不足が続くと機能が低下し、「気」の流れが滞ってしまいます。
するとエネルギーがうまく巡らず、局所でのエネルギーの過不足が起こり、パニック症状が出て来てしまいます。
この気滞という状態ではパニック発作の症状の他に、首肩のコリや張り、情緒不安定、怒りっぽい、イライラしやすい、ため息、ゲップ、わきや胸の張り、お腹の張った痛みや膨満感、胸焼け、めまい、耳鳴り、頭痛、喉の異物感といった症状を併発する事があります。
あるいはパニック発作が出る以前に、こう言った症状がもともとあったというケースも多く見られます。
パニック障害に対する三軒茶屋α鍼灸院の治療
パニック障害に対する鍼灸治療には大きく分けて2種類あります。
一つは全体調整の治療、もう一つが局所の治療です。
まずは全体調整では、パニック障害の背景にある自律神経機能のアンバランスを解消する治療を行います。
この治療では、交感神経の亢進を抑え副交感神経の働きを促すツボや、東洋医学的な面から「肝」の機能を調整し「気」の流れをスムーズにするツボを用います。
これらの治療により自律神経機能を調整していきます。
またこれは臨床経験上の傾向ですが、自律神経機能にアンバランスがある方のほとんどに首周りの筋肉に強いコリ(鍼灸ではこのコリをトリガーポイントと言います )が存在しています。
経過が長い方ほど、広範囲かつ深部にまでこのトリガーポイントがあります。
この首周りのトリガーポイントが自律神経のアンバランスを引き起こしているケースも多く見られ、これを一つ一つ緩めていく事で、自律神経の機能バランスが整い、それに伴ってパニック症状と不安症状も改善していきます。
もう一つの治療に局所の治療があります。
局所とは、例えば動悸なら胸周りや背中の筋肉、めまいなら首周りや頭部の筋肉など、症状に直接関連のある筋肉のトリガーポイントを緩めていく治療です。
その他に、息苦しさなら胸周りや背中、喉の詰まりは首周りの筋肉の関与が多く見られます。
このように全体調整の治療と局所治療を組み合わせる事で、根本的なパニック障害の治療を行っていきます。
治療の前には問診だけでなく、三軒茶屋α鍼灸院の自律神経測定器を使い、自律神経の状態を必ずチェックします。
症例
40代 男性
1ヶ月前から突然胸の痛みと動悸が出るようになった。息苦しさや強烈な背中の痛み、冷や汗も伴う。これらの症状は長くとも20分ほどで治る。
病院で様々な検査を受けるも異常なし。最終的には心療内科でパニック障害と診断され、服薬にて治療をしているが改善されないため来院。
特に電車やエレベーターで症状が出やすい。
発症する前数ヶ月は強烈なストレスに晒されていた。
10数年前から数回、交通事故に遭いムチウチの既往あり。首の痛みも常にある。
5年前には約1年間自律神経失調症を発症していた。その後、うつ病も発症し服薬治療を受けていた。これらは今は回復しているとの事。
頭の付け根から首の後ろ(頭半棘筋)、背中(多裂筋)、胸周り(大胸筋)の筋肉の緊張とコリ(トリガーポイント)が強い。圧痛も強い。
これらの筋肉のトリガーポイントによる自律神経失調症が背景にあるパニック障害と考え、これらのトリガーポイントの解消のための鍼灸治療を行いました。
①1〜3回目
全体調整(自律神経調整)として後頭骨付着部筋、頭半棘筋の治療と、局所として胸部多裂筋、大胸筋の治療を行いました。
治療後は、首や背中の痛み、息苦しさ、動悸などの症状が軽減するが、2〜3日経つとまた出てくる。
10→5まで症状が減った。
②4〜7回目
強いストレスを受けると症状が強くなるが、それ以外の時は症状が出なくなる。
筋肉の緊張も和らいでくる。
5→3。
③8〜10回目
ストレスを受けてもほとんど症状が出なくなる。ストレスに強くなったとの事。
最初はこのまま死ぬんじゃないかと思ったけど、症状が落ち着きとても安心した。
10→1。
現在は、メンテナンスの為に月に1〜2回の継続治療中です。
この方はもともと何回も交通事故に遭われていたため、首周りの筋肉が傷み、数多くのトリガーポイントが形成されてあました。
このトリガーポイントが自律神経の乱れを引き起こしていて、強いストレスをきっかけにパニック症状が現れていたと考えられます。
今回のケースのように、過去の事故や長年の首肩コリによって徐々にトリガーポイントが形成され、何かをきっかけに爆発するように様々な症状が出てしまうケースもよく見られます。
少しでも自律神経の乱れによる症状が出ていたら、早めの治療をお勧め致します。