うつ病とは
うつ病は、気分が落ち込んだり、やる気が出なかったり、眠れなくなったりといった症状が現れる病気です。気分障害の一つに分類されます。
うつ病の症状
うつ病の症状は、大きく精神症状と身体症状に分けられます。
精神症状
◯気分が落ち込む、憂うつな気分が続く:これは、うつ病の最も一般的な症状です。喜びや楽しみを感じられなくなったり、何事にも興味が持てなくなったりします。
◯やる気が出ない:仕事や家事などの日常的な活動をするのが難しくなったり、趣味や好きなことをする気力がなくなったりします。
○集中力ができない:読書や勉強など、集中力を必要とすることをするのが難しくなったり、注意散漫になったりします。
○いらいらする:些細なことでイライラしたり、怒りっぽくなったりします。
○不安感がある:将来のことや自分の健康のことなどを心配して、不安な気持ちになったり、落ち着かない気持ちになったりします。
○罪悪感や自己嫌悪感がある:自分が悪い人間だと思い込んだり、自分を責めたりします。
○死について考える:死について頻繁に考えたり、自殺願望を抱いたりすることがあります。
身体症状
○疲れやすい、だるい:十分な睡眠をとっていても、疲れが取れない感じがしたり、体がだるく感じたりします。
○眠れない、または寝すぎてしまう:眠りにつくのが難しかったり、夜中に何度も目が覚めたり、朝早く目が覚めてしまうことがあります。逆に、長時間寝すぎてしまうこともあります。
○食欲がない、または食べすぎる:食欲が落ちたり、食事に興味が持てなくなったりします。逆に、何もなくても食べ過ぎてしまうこともあります。
○頭痛や肩こり:頭痛や肩こりがひどくなったり、慢性化したりすることがあります。
○動悸:心臓がドキドキしたり、息苦しくなったりすることがあります。
○胃の不快感、便秘や下痢:胃のむかつきや吐き気、便秘や下痢などの症状が現れることがあります。
○めまい:めまいや立ちくらみなどの症状が現れることがあります。
これらの症状が2週間以上続く場合は、うつ病の可能性があります。
うつ病の原因
うつ病の原因は、完全には解明されていませんが、脳内の神経伝達物質の異常、遺伝、ストレスなどが関係していると考えられています。
脳内の神経伝達物質の異常
脳には、セロトニン、ノルアドレナリン、ドパミンなどの神経伝達物質が存在します。これらの神経伝達物質は、気分や感情、思考などを調節する役割を果たしています。
うつ病患者では、これらの神経伝達物質の量や働きに異常が見られることが分かっています。具体的には、セロトニンやノルアドレナリンの量が不足したり、機能が低下したりしていると考えられています。
遺伝
うつ病は、遺伝の影響を受けることが分かっています。うつ病の家族歴がある人は、そうでない人に比べて、うつ病を発症するリスクが高いことが知られています。
双子の研究によると、一卵性双生児の場合、一方がうつ病を発症すると、もう一方が発症する確率は約60%と言われています。
ストレス
ストレスは、うつ病の発症リスクを高める要因の一つです。
ストレスには、心理的ストレス(人間関係の悩み、仕事でのプレッシャーなど)と身体的ストレス(病気、怪我、出産など)があります。
ストレスを受けると、脳内ではコルチゾールなどのストレスホルモンが分泌されます。これらのホルモンは、一時的に体を活性化させる効果がありますが、長期的に分泌されると、脳内の神経伝達物質のバランスを乱したり、脳の機能を低下させたりすることが分かっています。
東洋医学からみたうつ病
東洋医学では、うつ病は「気滞血瘀(きたいけつお)」という状態と考えられています。
気滞血瘀とは、「気」と「血」の流れが滞っている状態のことを指します。気は、生命活動のエネルギーの源であり、血は、栄養素や酸素を体の隅々に運ぶ役割を担っています。
うつ病では、ストレスや心の悩みなどによって、気や血の流れが滞り、五臓六腑の働きが低下すると考えられています。五臓六腑とは、東洋医学における体の主要な器官のことで、肝、心、脾、肺、腎などが含まれます。
五臓が影響を受けると
○肝:気の疏通を司る臓腑です。肝の機能が低下すると、気が滞り、イライラや怒り、不安などの症状が現れます。
○心:血を巡らす役割を担っています。心の機能が低下すると、血の流れが滞り、不眠や動悸、息切れなどの症状が現れます。
○脾:消化吸収を司る臓腑です。脾の機能が低下すると、食欲不振や消化不良、下痢などの症状が現れます。
○肺:呼吸を司る臓腑です。肺の機能が低下すると、息切れや咳、倦怠感などの症状が現れます。
○腎:生命エネルギーの源を司る臓腑です。腎の機能が低下すると、疲れやすい、腰痛、頻尿などの症状が現れます。
うつ病と鍼灸
うつ病に対する鍼灸治療は、近年注目を集めており、西洋医学の薬物療法と併用して行われることがあります。
鍼灸の効果
○うつ症状の改善:気分の落ち込み、不安、イライラなどのうつ症状を改善することが期待できます。
○睡眠の改善:眠りにつきにくい、夜中に目が覚めるなどの睡眠障害を改善することが期待できます。
○ストレスの軽減:ストレスによる心身の緊張をほぐし、リラックス効果をもたらすことが期待できます。
○自律神経の調整:自律神経のバランスを整えることで、心身の安定を図ることができます。
○体質の改善:体質を改善することで、うつ病の再発予防に効果が期待できます。
メカニズム
まだ完全には解明されていませんが、いくつかのメカニズムが考えられています。
○脳内神経伝達物質への作用:鍼灸刺激は、脳内神経伝達物質であるセロトニンやノルアドレナリンの分泌を促進することが分かっています。これらの神経伝達物質は、気分や感情を調節する役割を担っており、うつ病の症状改善に効果があると考えられています。
○βエンドルフィンの分泌:鍼灸刺激は、βエンドルフィンと呼ばれるホルモンの分泌を促進することが分かっています。βエンドルフィンは、鎮痛作用や幸福感をもたらす作用があることから、うつ病の症状改善に効果があると考えられています。
○自律神経の調整:鍼灸刺激は、自律神経のバランスを整える効果があることが分かっています。自律神経は、心拍数や血圧、体温などを調節する役割を担っており、うつ病では自律神経の乱れが症状悪化の一因と考えられています。
副作用
鍼灸治療は、薬物療法と比べて副作用が少ないという利点もあります。薬物療法では、眠気、めまい、吐き気などの副作用が現れることがありますが、鍼灸治療では軽度な痛みや内出血などの副作用が稀に起こる程度です。
ただし、鍼灸治療の効果は個人差があることがわかっています。また、すべてのうつ病患者に効果があるわけではありません。